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第六十八話 封印の聖女と異能王

Penulis: 月歌
last update Terakhir Diperbarui: 2025-07-11 09:34:54

◆◆◆◆◆

石の扉が、音もなく開いた。

そこは、空気すら静止したような、深く沈んだ空間だった。

地下深く、地脈の魔力が脈打つ神殿の最下層。

広間の中央に佇むのは、ふたつの石像。

堂々たる威厳と気高さを宿す若き王と、中性的な気配を漂わせる青年。

――始まりの異能王、レオニス・ド・ルミエール

――始まりの聖女、相馬直人

「……ここが、封印の地……」

遥は、ぽつりと呟いた。

そして、そっとカイルの腕から降りると、静かに石像を見つめた。

その目に、ノエルの屋敷の地下で見た幻が重なるように浮かび上がった。

かつて見た“始まりの異能王と聖女”の記憶が、静かに重なってゆく。

地下最深部、結界の中心。

王と聖女は並んで立っていた。

足元に浮かぶ無数の魔法陣が光を放ち、教会の詠唱が低く響く。空間全体が、古代語の呪に染められていく。

聖女・直人は王の隣で微笑んだ。

「また、いつか……この国が、俺たちを必要としてくれたら」

「……きっと、誰かがこの扉を開いてくれる。俺はそれを信じてる」

レオニスは、その声に静かに頷いた。

封印の光がふたりを包み込み、魂ごと静かに凍らせていく。

かすかに触れ合った指先。

言葉にしなかった願い。

――こうして、異能王とその聖女は、石の中に眠りについた。

「……見える……」

遥は、石像に近づき、床に刻まれた封印の魔法陣を見つめた。

そこには、聖女にしか読めない光の文字が浮かんでいた。

『……聖なる光よ、黄昏に囚われし魂を……いま、目覚めの地へと導き給え……』

レオニスが、未来の聖女に託して刻んだ封印解除の呪文――

遥は指先でそっと文字をなぞり、その言葉を静かに口にした。

コナリーたちは警戒をにじませながらも、遥の意志を信じ、黙って従った。

「……聖なる光よ、黄昏に囚われし魂を……いま、目覚めの地へと導き給え……」

ふわりと光が広がり、石像を包む。

封印の紋が淡く脈動し、絡みついていた封の光が一筋ずつ解けていく。

やがて――

石が剥がれ落ちるように崩れ、ふたりの姿が現れた。

まず、白衣の聖女・直人が瞼を開き、

続けて、冠を戴く若き王・レオニスが静かに息を吸い込んだ。

長い眠りから目覚めたその眼差しは、理知的にして深く、どこか遠くを見つめているようだった。

直人の視線が、遥に向けられ、わずかに揺れる。

「……日本人……?」

それは、半信半疑の呟きだった。
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